記憶の暗室から思い出が現像されていく。
昼間から飲む。
グラスは初夏の暑さで汗を書いていた。
彼女とメニューを端からみて、お互いの意見を述べる。
向こうには、常連さんが遅めの昼ごはんを食べていた。
それを見てると、やけにお腹がすく。
美味しいものを食べるのはほんとに幸せなことだ。
その幸せに、少しだけアルコールを足して、味わい深いものにする。
カメラは、事実しか述べないので、ために苦しくなる。
幸せな時は覚えておきたい場面が、多すぎて、シャッターの数が加速的に増えて行く。
楽しむことが最優先なのに、覚えておくことがそれを追い抜かす時がある。
そんなときに、アルコールがあると素晴らしい。
あまり、シャッターは切らずに、記憶も緩やかになる。
「まぁ、いいかー」となって、どんどん時間に身を任すようになる。
数日も経てば、その日は幸福であったことは覚えているが、
何が幸福だったのかのディテールは分からない。
そんなときに現像上がりの写真を見る、そうすると記憶がありありと蘇るのだ。
「あぁ、バイスが三杯までで、彼女と三杯も飲めるか話し合ったんだ」
「そして、帰り道に彼女と真っ赤な顔でケーキ屋さんに入り、路上でケーキにぱくついたんだ」
写真はたくさんはいらない、ほんの一瞬、 日常の最も幸福な時を写してくれれば良い。
そうして、記憶の暗室から思い出が現像されていく。