「こっち」から「向こう」
はるか遠方に、向こう岸が見え出す。
俺の旅には、フェリーがつきものだ。
大切なのは、こっちではない、向こうだ。
こっちと、向こうの間に、海が横たわり、それを跨ぐことで、向こうへつく。
この儀式が、旅において、最重要である。
海により、日常が断絶され、非日常に赴くのである。
なので、俺は旅により、フェリーを用いる。
陽気なカモメが並走し、白波が生まれ死ぬ。
太陽は睨みをきかし、夏であることを強く誇る。
甲板で、潮風にかき乱される髪を抑え、君に口づけする。
「向こう」へ、さぁ。